「今日こそは絶対にバズらせる!」
そう心に誓い、佐々木健太はスマホの画面に釘付けになっていた。彼はSNS中毒だった。
いや、中毒というよりは、SNSで承認されることが生き甲斐だった。
投稿した写真や動画に「いいね」が付くたびに、脳内ではドーパミンが溢れ出し、満たされた気持ちになった。
通知が止まらない
ある日、彼はいつものように何気ない日常の風景を投稿した。何の変哲もない、ただの電柱と電線が写った写真だ。
普段ならせいぜい数十の「いいね」しか付かないような写真だが、その日は違った。
投稿して数分後、異常なペースで「いいね」が増え始めたのだ。
100、200、500……瞬く間に1000を超え、数万、数十万と跳ね上がっていく。
通知が止まらない。スマホが熱を持つほど鳴り続ける。
「なんだこれ、バグか?」
健太は戸惑いながらも、興奮を隠しきれずにいた。
コメントも殺到し、「すごすぎ!」「神投稿!」「何が写ってるの?」など、意味不明な賞賛の嵐だった。
しかし、彼の投稿に写っているのは、やはりただの電柱と電線だけだ。
増え続ける「いいね」
夜になっても「いいね」は止まらない。健太は寝る間も惜しんで画面を見つめていた。
やがて、彼は奇妙なことに気づいた。増え続ける「いいね」の数に比例して、彼の現実の生活が希薄になっているような気がするのだ。
翌朝、彼は会社に行く準備を始めた。
しかし、着替えようとしても服がない。
財布も、鍵も、どこにも見当たらない。
部屋の中は雑然としていて、まるで自分がそこに住んでいないかのような、馴染みのない空気が漂っていた。
それでも「いいね」は増え続ける。
彼の意識は徐々に、スマホの中の世界に吸い込まれていくようだった。
浸食
数日後、健太はほとんど食事もせず、睡眠もとらずにスマホを凝視していた。
彼の体は痩せこけ、肌は不健康なほど青白い。部屋はゴミだらけで、異臭が漂っている。
彼の顔には、狂気じみた笑みが浮かんでいた。
やがて、彼は自分の指が、画面をタップする動きしかできないことに気づいた。
腕は、スマホを持つ形に固定されてしまったかのように動かない。
彼の視界には、無限に増え続ける「いいね」の数字しか映らなくなった。
彼の部屋のドアを叩く音も、郵便受けに入れられた催促状も、すべてが彼には届かない。
彼はただ、画面の中の「いいね」の数だけを、永遠に見つめ続けている。
そして、ある日、彼の投稿に「いいね」が1兆個を突破した瞬間、彼の意識は完全に途絶えた。
残されたのは、画面の中で永遠に増え続ける「いいね」の数字と、空虚な目を画面に向けたままの、ただの肉塊だけだった。
「いいね」は、まだ増え続けている。